建設業
コンプライアンス
一括下請負の禁止について
投稿日 2024年1月18日 最終更新日 2024年1月18日
一括下請負とは、自己が請負った建設工事をそのまま一括して他人に請け負わせることをいいます。一括下請負は、注文者が建設業者に寄せた信頼に反する行為です。また、中間搾取、工事の質の低下、労働条件の悪化、責任の所在の不明確化等の発生要因にもなりかねません。さらに、施工能力のない商業ブローカー的不良建設業者の輩出を招くおそれがあります。
そのため、建設業法は、この一括下請負を原則として禁止し、実質的に施工に関与しない業者を施工体制から排除(不要な重層化を回避)し、適正な施工を確保することを求めています。
1.一括下請負禁止の原則
建設業法は、建設業者が自ら請負った建設工事を一括して他人に請け負わせることを禁止するとともに、下請負業者に対してもこれを一括して請け負うことを禁止しています。
なお、公共工事については、入札契約適正化法で一括下請負が全面的に禁止されています。民間工事については、発注者(最初の注文者)から書面による承諾を受けた場合に限り認められます。ただし、共同住宅を新築する建設工事(※1)については、全面的に禁止されています。
一括下請負に該当する場合とは
元請人がその下請工事の施工に実質的に関与することなく、以下の場合に該当するときは一括下請負になります。
- 請け負った建設工事の全部又はその主たる部分について、自ら施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合
- 請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事について、自ら施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合
- ※1.2005年の構造計算書偽造事件を受け、共同住宅(マンション、アパート等)を新築する工事については、発注者の事前の承諾があっても全面的に禁止となりました。ただし、長屋を新築する工事は共同住宅を新築する工事には含みません。(共同住宅であるか長屋であるかの判別は、建築済証により確認できます。)
2.一括下請負の判断基準
実質的に関与とは、元請人が自ら施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理、技術的指導を行なうことをいいます。一括下請負の判断基準として、元請・下請それぞれが果たすべき役割は、以下のとおり具体的に定められています(※2)。
元請が果たすべき役割(以下の事項を全て行う) | 下請が果たすべき役割(以下の事項を主に行う) | |
施工計画の作成 | ●請け負った建設工事全体の施工計画書等の作成 ●下請負人の作成した施工要領書等の確認 ●設計変更等に応じた施工計画書等の修正 | ●請け負った範囲の建設工事に関する施工要領書等の 作成 ●下請負人が作成した施工要領書等の確認 ●元請負人等からの指示に応じた施工要領書等の修正 |
工程管理 | ●請け負った建設工事全体の進捗確認 ●下請負人間の工程調整 | ●請け負った範囲の建設工事に関する進捗確認 |
品質管理 | ●請け負った建設工事全体に関する下請負人からの施工報告の確認、必要に応じた立会確認 | ●請け負った範囲の建設工事に関する立会確認(原則) ●元請負人への施工報告 |
安全管理 | ●安全確保のための協議組織の設置及び運営、作業場所の巡視等請け負った建設工事全体の労働安全衛生法に基づく措置 | ●協議組織への参加、現場巡回への協力等請け負った範囲の建設工事に関する労働安全衛生法に基づく措置 |
技術的指導 | ●請け負った建設工事全体における主任技術者の配置等法令遵守や職務遂行の確認 ●現場作業に係る実地の総括的技術指導 | ●請け負った範囲の建設工事に関する作業員の配置等法令遵守 ●現場作業に係る実地の技術指導※ |
その他 | ●発注者等との協議・調整 ●下請負人からの協議事項への判断・対応 ●請け負った建設工事全体のコスト管理 ●近隣住民への説明 | ●元請負人との協議※ ●下請負人からの協議事項への判断・対応※ ●元請負人等の判断を踏まえた現場調整 ●請け負った範囲の建設工事に関するコスト管理 ●施工確保のための下請負人調整 |
※は、下請が、自ら請けた工事と同一の種類の工事について、 単一の建設企業と更に下請契約を締結する場合に必須とする事項
- 建設業者は、工事現場に配置技術者(主任技術者又は監理技術者)を置かなければなりませんが、単に技術者を置いているだけでは上記の事項を行なったことにはならず、また、現場に元請負人との間に直接的かつ恒常的な雇用関係を有する的確な技術者が置かれない場合には、実質的に関与しているとは言えません。
- 一括請負に該当するか否かの判断は、元請負人が請負った建設工事1件(請負契約単位)ごとに行なわれます。
- ※2.この判断基準は、横浜市で発覚した傾斜マンション事件を契機に、国土交通省通知(H28.10.14)として発出されています。(横浜市の事案では、1次下請が主な工事を再下請し、元請は自ら総合的に企画・調整等を行っていませんでした。一括下請負の判断基準である工事への「実質的関与」が、必ずしも明確ではなかったことが問題とされました。)
3.禁止とされる場合
- 元請業者と一次下請業者間はもちろん下請業者間の一括下請負についても禁止
- 一括して請負うことが禁止されているのは、「建設業を営む者」。従って、許可を受けずに軽微な工事のみを請け負う者も規制の対象
- 両者が親会社と子会社の関係であっても禁止(連結関係であっても禁止)。
- いかなる方法をもってするかを問わず一切禁止(契約を分割し、あるいは他人の名義を用いるなどのことが行なわれていても、その実態が一括下請負に該当するものは禁止)
- 一括下請負により、発注者の期待を上回る出来上がりであっても禁止
- 元請負人が一切利潤を得ていなくても一括下請負に該当し禁止
4.禁止違反者に対する監督処分
一括下請けの禁止に違反した建設業者に対しては、行為の態様、情状等を勘案し、再発防止を図る観点から原則として営業停止の処分が行なわれることになります。
なお、一括下請負を行なった建設業者は、当該工事を実質的に行っていると認められないため、経営事項審査における完成工事高に当該建設工事に係る金額を含めることは認められません。