建設業
コンプライアンス
建設業者に求められる「適切な社会保険への加入」とは
投稿日 2024年5月13日 最終更新日 2024年5月14日
建設業法の改正(令和2年10月施行)により、建設業の許可又は許可更新の申請時に適切な社会保険(医療、年金、雇用の3保険)への加入が要件化されました。
この3保険に未加入の事業者は、「建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するもの(建設業法第7条1号)」とは認められず、建設業の許可を取得することも更新することもできません。
社会保険への加入が義務ということを理解はしていても、制度が難解なため、特に事業所の体制が変わった場合などに、保険への新規加入や切り替えを失念してしまう可能性があります。一人親方が新たに従業員を雇用する場合、個人事業主の従業員が5人以上になった場合、個人事業主が法人化する場合などは特に注意が必要です。
ここでは、国交省の社会保険未加入対策が推進する3保険について解説します。
1.社会保険未加入対策が推進する3保険とは
我が国の保険制度は、医療保険、年金保険、介護保険、労働者災害補償保険(労災保険)、雇用保険の5つ(※1)にわかれており、これらを所管するのは厚生労働省です。
建設業においては、国土交通省が建設産業行政の一環として厚生労働省と連携しながら、とくに加入状況の低い医療保険、年金保険、雇用保険の3保険について未加入事業者排除に向けた取組みを進めています。これらを通して、建設業の持続的な発展に必要な人材の確保や企業間の健全な競争環境の構築を図ろうとしています。
なお、国土交通省が進める社会保険未加入対策には、上記のほかに以下のものがあります。
- 施工体制台帳等の記載事項に保険加入状況を追加
- 経営事項審査における保険未加入企業への減点措置の厳格化
- 社会保険加入確認のCCUS(建設キャリアアップシステム)活用の原則化
※1.社会保険については、医療保険と年金保険の2つを狭義の社会保険、医療保険・年金保険・介護保険・労災保険・雇用保険の5つを広義の社会保険と呼ぶことがあります。一般的には、単に社会保険という場合は狭義の社会保険のことをいいます。
2.医療保険について
我が国の公的医療保険制度には、健康保険(被用者保険)、国民健康保険、後期高齢者医療制度の3つの種類があります。公的医療保険制度の加入は、年齢や就労状況等によって異なります。
このうち、健康保険は、健康保険組合や協会けんぽ(全国健康保険協会)などによる保険で、事業所を単位として適用されます。また、健康保険への加入が法律によって義務づけられている事業所を強制適用事業所といい、事業主や従業員の意思に関係なく加入が強制されます。なお、被用者保険の保険料は、労使折半となります。
3.年金保険について
我が国の公的年金制度は、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金(基礎年金)と、適用事業所に使用される70歳未満の人(法人の代表者、役員等を含む)が加入する厚生年金保険の2階建て構造です。適用事業所に使用される70歳未満の人は、第2号被保険者として2つの年金制度に加入することになります。厚生年金の保険料(国民年金分も含まれる)は、労使折半です。
厚生年金保険の適用事業所は、健康保険と同じです。原則として、健康保険と厚生年金保険には一緒に加入することになりますが、建設国保などの国民健康保険組合に加入しているときは厚生年金保険のみ適用されます。
社会保険の大まかな適用関係は、以下のとおりとなります。
4.雇用保険について
雇用保険は、労働者を一人でも雇用した場合に、その業種や事業規模のいかんを問わず、すべて事業所単位で適用されます。ただし、以下の場合は適用除外となります。
- 個人事業主、法人の代表取締役・取締役・監査役など
- 継続して31日以上雇用されることが見込まれない者
- 週所定労働時間が20時間未満の者
- 日雇い労働者(日雇い労働費保険者となるものは除く) など
5.その他(労災保険について)
労災保険は本来、事業所ごとに保険関係を成立させますが、建設業の場合、原則として元請けが工事現場ごとに一括して加入する方法が一般的です。(万一事故が発生した場合には、元請作業員か下請作業員かに関わらず、元請の保険で労災申請します。)そのため、社会保険未加入対策においては、労災保険は推進の対象となっていません。
とはいえ、建設工事を元請けとして請け負う場合は、当然労災保険への加入義務が生じます。また、一人親方が下請けに入る場合は、元請けの労災保険の対象にならない(一人親方は、労働者としてではなく独立して仕事を請け負う自営業者として扱われます)ため、特別加入団体(一人親方等の団体)を通して労災保険に特別加入することが可能です。